猫头鹰工业风扇:水稲の湛水直播に関する生理生態学的研究--広島大学

来源:百度文库 编辑:偶看新闻 时间:2024/05/06 04:23:46
水稲の湛水直播に関する生理生態学的研究

背景
世界的な食糧危機が心配されています。米はアジアの人々の主食であり、その生産性を上げることは重要な課題です。一般にイネは水田で移植栽培されます。移植には苗作り、苗運び、田植えと多大の労力を要します。
生産者は移植に比べて低コストで省力的な直播栽培の導入を希望しています。しかし、直播は難しく、その普及率はアジアで14%(残り86%は移植)、日本では1%に過ぎません。原因は苗立ち(播いた種が生長して幼植物になること)が不安定なことと雑草の管理が難しいことにあります。直播栽培技術を開発して、アジアの稲作を移植から直播栽培に切り替えることができれば、低コスト?省力化がすすみ生産性が飛躍的に高まります。
湛水直播とは
アジアの水田作においては、代かきが重要です。これは水田に水を入れて土壌とよく混ぜ合わせる作業で、雑草の発生を抑え、漏水を防ぎ、土壌を肥沃にします。除草剤の散布量を減らし、水資源を保全し、化学肥料の使用量を減らすことができ、持続的農業の発展につながります。
種子を畑と同じように水田で土壌中に播くと酸素不足に陥ります(図1)。イネは鞘葉を伸長させて、水に溶けている酸素を地中の種子まで輸送しますが、多くの個体は途中で死に苗立ち不良になります。そこで、土壌の表面に播くと、種子に浮力がかかり、また根が伸びるとき上向きの力が加わり、種子は浮き上がり(浮き苗)、苗立ち不良になります。このような問題を回避するため、種子を酸素発生剤といわれる農薬でコーティングし、播種時に排水して土壌を乾かしていますが、苗立ちは安定しません。
(図1) 湛水直播におけるイネの生理生態学的問題
イネ遺伝資源を活用した土壌中への播種技術
酸素不足に耐えられる品種を検索して生理学的な特性を解明しました。次にこれを元に土壌中に播種する技術を開発し、フィリピン、ベトナム、ミャンマーで実証試験を行い成功しました。このような品種は低酸素下での鞘葉の伸長が大きく(写真1)、苗立ちに優れています(図2、写真2)。
土壌中に播種するとイネ種子は還元による障害を受けやすくなります。そこで、直播栽培を安定的に実施するため、播種後一時的に排水して土壌を乾かし還元障害を回避します。このため土壌中への播種では代かきの効果が薄められ、雑草の発生につながるという弱点もあることがわかってきました。
(写真1) 鞘葉の伸長のイネ品種間の差異 移植栽培に使われる品種(写真上)と湛水土壌中で苗立ちの優れた品種(写真下)。
(図2) N2ガス中における鞘葉の伸長と水田における苗立ちの関係
鞘葉の伸長が優れているときに苗立ち率が高くなります。
(写真2) 移植に使われる通常の品種(右)と土壌中への播種に適した品種(左)の苗立ち フィリピンにおける実証試験。
鉄コーティング直播技術
イネ種子に鉄を付着させて比重を高め、水中でも浮かないようにした技術が鉄コーティング直播です(写真3、図3)。種子は土壌表面に播かれるため、酸素不足に陥らず、また還元障害も受けにくくなります。排水して土壌を乾かす必要がないので代かきの効果が保たれ、持続的な稲作が可能になります。
(写真3) 無処理の種子(左)と鉄コーティング種子(中央と右)
鉄の量は種子の重さの10%(中央、鉄コーティング比0.1)と
50%(右、鉄コーティング比0.5)。
(図3) イネ種子の鉄コーティング比と比重の関係
<鉄コーティング種子を用いた直播の概要を説明する動画(3分50秒)>
http://wenarc.naro.affrc.go.jp/seika/seika_movie/video/index.html
※リンク先のビデオライブラリーの中で「鉄コーティング種籾」をクリックしてください。
<鉄コーティング種子の作り方のマニュアル>
http://wenarc.naro.affrc.go.jp/tech-i/rice_for_feed/manufacturing_technique_manual_no2_s.pdf
鉄コーティング種子を用いた直播は生産者に好評です。中山間地では生産者の高齢化にともない人手不足になり、耕作放棄地が広がっています。平野部の水田地帯では、規模拡大が求められています。鉄コーティング種子は土壌の表面に播くので作業は簡単です。そのため様々な方法で直播できます(写真4、5、6)。
(写真4) 中山間地の棚田では動力散布機を使って散播します。
愛媛県の中山間地における実証試験。
(写真5) 大区画水田では多目的田植機(田植にも直播にも使える機械)で条播します。新潟県における実証試験。
(写真6) 中山間地の棚田や大区画水田ではラジコンヘリで
散播もできます。広島県御調町における実証試験。
鉄コーティング直播の実証試験は日本各地で行われています。食用イネのみならず、飼料イネ、飼料米、バイオエタノール米の生産に使われています。「種子の比重を変える」という小さな試みが、低コスト?省力型の持続的な農業技術に展開しつつあります。実験室における基礎的な研究の成果を生産現場において実証し、技術の普及を図っています。